契約階層の理解:IPAA / IPLA / LI
IBMのソフトウェアライセンスは、複数層の契約文書で構成されています。この階層を正確に理解することが、どの文書がどの条件を規定しているかを把握するための出発点です。
| 文書 | 正式名称 | 役割 |
|---|---|---|
| IPAA | IBM Passport Advantage Agreement | Passport Advantageプログラム全体の法的枠組みを定める主契約。IBM PoE(Proof of Entitlement)の発行基盤 |
| IPLA | International Program License Agreement | 個別プログラムのライセンス許諾条件を定める標準契約。使用権・制限・保証等を規定 |
| LI | License Information Document | 製品ごとのライセンスメトリクス・特定条件を定義するIPLAの附属文書。メトリクス計算ルールはここで定義 |
IBM製品のライセンス管理でトラブルが起きる多くのケースは「LIをきちんと読まずにメトリクスを誤解した」ことに起因します。特にPVU・VPC・RVUといったメトリクスは、製品ごとに計算方法が異なる場合があるため、対象製品のLIを必ず参照することが前提です。
IBMのライセンスメトリクス体系(19種)
IBMのライセンスメトリクスは、利用状況・環境・製品の種類に応じて多数の種類が定義されています。主要メトリクスの理解は、ライセンス管理の核心です。
| メトリクス | 略称 | 計算単位 | 主な適用製品 |
|---|---|---|---|
| Processor Value Unit | PVU | プロセッサーのコア数 × PVU係数(CPU種別・コア数で変動) | WebSphere、DB2、MQ、Tivoli系 |
| Virtual Processor Core | VPC | 仮想CPU(vCPU)数。クラウド・コンテナ環境での主要メトリクス | IBM Cloud Pak系製品、OpenShift関連 |
| Resource Value Unit | RVU | 管理対象リソース量(データ量・ユーザー数等を組み合わせた複合指標) | Maximo、Sterling Commerce系 |
| Million Service Unit | MSU | メインフレーム(z/OS)のCPU処理能力単位 | z/OS向けソフトウェア全般 |
| Authorized User | AU | アクセスを許可されたユーザー数(実使用問わず) | Notes/Domino(旧Lotus)、Connections系 |
| Floating User | FU | 同時使用ユーザー数(コンカレントユーザー) | Rational系開発ツール |
| User Value Unit | UVU | ユーザー数に応じたスケール課金(ユーザー数帯でPVUが変動) | 一部のLotus/Collaboration系 |
PVU係数はCPUアーキテクチャ・コア数・製品リリース時期によって異なります。最新の「IBM PVU Table」(SWMA / Passport Advantage Onlineから入手可能)を参照することが必須です。例:Intel Xeon 2コアは1コアあたり50PVU、8コア以上は100PVU等、コア数によってPVU/コアが変わる場合があります。
ILMT(IBM License Metric Tool)とサブキャパシティ
IBMのPVU・VPCライセンスにはフルキャパシティとサブキャパシティという2つの計算方式があります。サブキャパシティ(製品が動くVMのコア数のみをカウント)を選択することでライセンスコストを大幅に削減できますが、そのためにはILMTの導入・継続稼働が条件です。
フルキャパシティ: 物理サーバーの全コア数をライセンスカウントの対象とする。ILMTが不要だが、コストが高い。
サブキャパシティ: IBMソフトウェアが実行されるVMに割り当てられたコア数のみをカウント。コスト削減効果が大きいが、ILMTの継続稼働・90日ごとのレポート生成が契約上の義務。
ILMTの運用要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| インストール義務 | IBMソフトウェアが動作する全ての仮想化環境でILMTを稼働させる(例外あり) |
| スキャン実行 | IBMソフトウェアのインストール状況・コア使用状況を定期スキャン |
| 90日レポート | サブキャパシティを維持するため、90日ごとにライセンスレポートを生成・保存(監査対応の証跡) |
| バージョン管理 | ILMTのバージョンが古いとサブキャパシティ権を失う可能性。IBM固定のサポートバージョンを維持する |
コンテナ環境でのライセンス管理:IBM License Service
Kubernetes・OpenShift環境でIBM製品(特にIBM Cloud Pak系)を動かす場合、ILMTではなくIBM License Serviceというコンテナ専用のライセンス計測ツールが使用されます。
IBM License ServiceはKubernetesクラスター内にPodとしてデプロイされ、ノード上のCPU割り当てを計測してVPCライセンスの使用状況を記録します。ILMTと同様に90日ごとのレポート生成が求められますが、コンテナ環境ではVMのコア数ではなくPodに割り当てられたCPUリソース(requests/limits)が計測対象となる点が重要です。
Kubernetes環境でCPU limitsを設定していない(または過大に設定している)場合、実際より多くのVPCが計測される可能性があります。IBM License Serviceが正しく機能するためには、Podレベルでのリソース設定が適切であることが前提です。
パスポートアドバンテージ(PA)台帳管理
IBMの購買プラットフォームであるPassport Advantage(PA)では、購入済みのライセンス・PoE(Proof of Entitlement)・SA(Software Subscription and Support)の有効期限を一元管理できます。台帳管理の観点でのポイントは以下の通りです。
PoE(権利証明書)は製品ごと・メトリクスごとに発行され、同一製品でも複数の購入契約が存在する場合はPoEが複数発行されます。複数PoEの合算(Aggregation)によって実際のライセンス所有権を計算することが、ELP(Effective License Position)算出の基礎です。S&S(Software Subscription and Support)の有効期限が切れると技術サポートとバージョンアップ権が失われるため、S&S更新管理をカレンダー管理することが必須です。
監査(GLAS)への対応
IBMの監査組織はGLAS(Global License Advisory Services)と呼ばれます。GLASによる監査通知が来た場合、ILMTのスキャンレポート・PoEのエクスポート・ELPの提示が求められます。監査前の自己診断として「IBM Software Discovery Report」を定期生成し、インストール済み製品と保有PoEの差分を把握しておくことが最善の準備です。
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